「ソッパとロキシ」
小さな鉈で水牛の肉を叩いて、ミンチにする。野辺の、韮だか、蓬だかの強烈な草を毟り取って、刻んで混ぜ込む。岩塩を振って、粉を振って、(たぶんソバ粉を)掌で練る、立派な臭いが鼻を襲う緑のハンバーグ・ミートが出来上がります。それを台所の竃の、青い炎の上にかざして焼く、その炎が素晴らしく臭い。青い炎は羊の「うんこ」(水牛もあるか)を乾かしたものだから仕方がありません。緑のミートが黒く焼けたら掴んで、あんぐりと食う、はふはふ、「旨・臭い」、そして少し哀しい、だから「ロキシ」をグビリと飲む、効いた、「旨・臭い」が「旨い」になった、「ロキシ」の効き目です。
「ロキシ」、焼酎の親戚、砂糖から造ったものとか・・・。所はネパール、銅細工の町・パダンのオカネ持ち「ダルマさん」んちに転がり込んで、一ヶ月以上滞在しても言葉はまるでシャベれません。ミートのツナギがソバ粉だったのか、ロキシの原料が砂糖だったのか、確かめ切れていないのです。だけど匂い立つミートに潜んでいたものは確かな「ソバ」の香りでありました。それは私の「ある日の記憶」に繋がっているからです。「ある日」村の食堂で、ダライ・ラマ一行から「落ちこぼれた」と言うチベット人のコックと知り合いました、そして山羊の乳で煮たソバ雑炊をご馳走になった、その香りと、パダンのミートの匂いがまるで同じだったのです。チベット高原に波打つ「ソッパの実」の香りです、そう、チベットではソバのことを「ソッパ」というのです。
その夜、チベット民謡にそっくり溶け込む「信濃追分」を合唱しながら、二人でロキシに酔い痴れたことでした。「小諸出てみろ、浅間の山にヨウ、今朝も煙が、三筋立つ」


